きみとぼく 第14話


「C.C.、お前が俺を、私を否定するというのか!お前が!」

自分以外に資格のあるものなどこの世にはいない。それなのに、否定するのか。

「ああ、否定するよ。哀れすぎて見ていられない。何よりあいつの命が無駄になるのを見ていられない」

もう人の歴史に関わりたくはなかったが、あいつに関わることは別だ。
魔女は瞳に怒りを滲ませ詰め寄った。

「あいつの命?そう、私は多くの命を犠牲にし、今ここにいる。彼らの死をムダにしないためにも、私は」
「見当違いな話をするな。私が言っている命はその他大勢の見知らぬ命じゃない。こいつのことだ」

そう言って彼女は肩にかけていたカバンをひらき、テーブルに置いた。
一体何のつもりだと彼女を見た時、セシルが声を上げた。

「ああ、よかった。C.C.さんが連れ出していたのね」

心の底からの安堵とともに、セシルの両目に雫が溢れた。
嬉し涙、だろうか。
ロイドも安心したように笑い、それを見ていた咲世子も笑った。彼らの反応で誰が無事なのはわかったが、本当に無事なのか、生きているのか確かめたくてカバンを覗き込む。その中には体を寄せ合って眠る三人がいて、ああ、やっぱり生きていた。 そうだよ、彼はしぶといんだ。そう簡単には死なないと、安堵し、同時に混乱した。
死なない?おかしな事を。これが生きているはずがないのに。

「見つけたときには脱水症状がひどく、死にかけていた」

だから、水とピザを与えてきたと魔女は言った。

「だが、時間とともに動きが鈍くなり今はこの状態だ」
「疲れて寝ているのでは?」

セシルが不安げに尋ねると、C.C.は首を緩く振った。

「いや、これは違う。活動が停止しかかっている。つまり、死にかけている」

死という言葉に、緊張が走った。

「・・・これに命など無い。だから死はありえない」
「残念ながらこれには命がある。仮初の命が。これを殺すのはお前だ」

冷たい眼差しで見つめられ、得も言われぬ恐怖からか思わず喉が鳴った。

「私が、殺すと?」
「そうだ。そもそもこれはお前が生み出したものだからな」
「私が?おかしな事を言う。私にこれを作る技術はない」
「私は作り出したとは言っていないぞ?生み出した、と言ったんだ」

生み出した?それは一体どういう意味だと思わず眉を寄せた。

「言っている意味がわからないんだが」
「まあそうだろうな、私も驚いた」

そう言いながらC.C.は、鞄の底で眠っていた三人を優しい手つきで持ち上げ、テーブルの上に移動させた。三人は、眠ったまま目を覚ます気配がない。やけどを負った皇帝だけではなく、他の二人もだ。

「先程の話の結果だよ。お前は、ゼロであろうとした。個はゼロに不要だと、お前はお前自身を消し去ろうとした。だが、そこで不具合が起きた。それは、お前にかけられたギアスだ」
「ギアス?」
「ああ、お前たちが願いと呼んだギアスだよ」
「願い・・・?」

ギアスは異能、忌むべき悪魔の力だ。それが願い?
ありえないと口にしようとしたとき、誰かの声が聞こえた。

『俺は人々の、願いという名のギアスに…』

段々と消えていく声。だが、間違いなく願いをギアスだと言っていた。
願いとギアスは似ていると、そう誰かが言っていた。
あれは誰だったか。
だが、そうだ。
たしかに自分はギアスを受け取った。

「あいつの願いを受け取ったのはゼロではない。ゼロとあいつは敵同士。敵に願う事ではないだろう?だからあれは、あくまでもゼロを演じる個人に向けられた言葉だった。だが、その願いはゼロという英雄には不必要なものだとお前は判断した」
「・・何を言っている」

自分は、そんなことを考えたことすら無い。
なのにこの魔女はすべてを知っているとでもいいたげに言葉を紡ぎ続けた。

「全てお前の中で起きたことだ。お前が理想とする英雄には不要とされた、お前個人に向けられた願い。お前が無意識に排除し続けた記憶のなかで最後に残った欠片が、ギアスという名の願いだった。お前自身が命を賭して守ろうとした願い。その願いすらも、もう無用の長物だと判断したゼロは、それをも消しにかかったが、ギアスはそう簡単に消えはしない。願いをかけた張本人との思い出を使い、こうして人格を形成し、お前の外に逃げ出した。これはな、お前の記憶だ。消されまいとあがき、生きろという願いが手助けしたもの。あいつから渡されたギアスの具現化だ」

生きろというギアスと願いのギアスが奇跡を産んだ。

「C.C.、私を馬鹿にしているのか?」

願いの、思いの具現化?記憶が命を得たと?絵空事を。

「いや、大真面目だよ私は。・・・全ての選択権はお前にある」
「選択権?」
「お前の理想とする英雄には、これは不要なものだ」

不要。この三人が。
身動き一つなく眠り続けるこの小さな人が。

「理想の英雄になりたいなら、三人を殺せ」

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